「DXを進めろと言われたんですが、何から始めればいいですか」
この相談が来たとき、私が最初に言うのは「全体像から作らないでください」です。
現状分析をして、あるべき姿を描いて、ロードマップを引く。順番としては正しいのですが、片手間でやると3か月かけて資料だけができて、そこで力尽きます。そして次の年度に、また同じ資料を作り直すことになります。
代わりにお勧めしているのは、こういう順番です。
ステップ1:時間を取られている作業を、20個書き出す
計画ではなく、事実から始めます。
「自分(と周りの人)が、時間を取られていると感じている作業」を、思いつく順に20個書きます。粒度は揃えなくて構いません。「月次集計」と「あの人にメールを転送する」が並んでいて構いません。
20個というのは、10個だと本命が出てこないことがあり、30個だと書ききれないからです。だいたい20個くらいで、そこそこ全体が見えます。
このとき、「これはDXっぽくない」で外さないでください。DXっぽさは判断基準になりません。時間を食っているかどうかだけで書きます。
ステップ2:それぞれに、時間と回数を入れる
各作業に、この2つを入れます。
- 1回あたり何分か
- 月に何回やるか
掛けて60で割ると、月あたりの時間が出ます。ここで毎回起きるのが、「思っていたのと順位が違う」ことです。
- 大変だと思っていた月次集計 … 月1回×3時間 = 月3時間
- 何とも思っていなかったメール転送 … 1日20回×2分 = 月14時間
目立つ作業と、時間を食っている作業は違います。目立つのは「まとまってつらい作業」ですが、実際に時間を奪うのは「細かく何度も来る作業」です。そして後者のほうが、たいてい自動化しやすい。
この書き出しと計算をするためのシートを、資料室に無料で置いています。優先度まで自動で並ぶようにしてあるので、埋めるだけで次のステップに進めます。
ステップ3:上位の中から、「判断が入らないもの」を1つ選ぶ
時間順に並んだら、上から順に見て、人の判断が混ざっていないものを1つ選びます。
判断が入るものは、後回しにします。理由は難しいからではなく、最初の1本で成功体験を作りたいからです。判断が絡むと決めることが増えて、時間がかかり、途中で止まりやすくなります。
選ぶ条件をまとめると、
- 月あたりの時間が上位
- 判断が入らない(転記、通知、集計、振り分け、督促)
- 関係者が3人以下
- 止まってもその日は困らない
最後の条件が地味に大事です。止まると即座に業務が止まるものを1本目に選ぶと、慎重になりすぎて進まなくなります。
ステップ4:3か月で作って、時間が減ったことを見せる
期限を切ります。3か月です。
なぜ3か月かというと、それより短いと業務の合間では終わらず、それより長いと人事異動や方針変更で前提が変わるからです。
そして、終わったら必ずこれをやります。
- 前は月◯時間、今は月◯時間、と数字で出す(正確でなくて構いません。体感で十分です)
- やった人の名前を出す
- 次に何をやるかを、その場で1つ決める
この報告があるかどうかで、2本目が作られるかが決まります。「効果が出たら報告しよう」と思っていると、たいてい報告しないまま次の忙しさが来ます。
この順番にしている理由
立派なロードマップより、動くものが1つあるほうが強いからです。
- 予算を取りにいくとき、動いているものがあると話が早い(「これと同じことを他部署でもやります」と言える)
- 協力を頼むとき、楽になった人が味方になる
- 続けるとき、成功体験がないと2本目が始まらない
全体像は、3本目くらいを作っているときに描くと、地に足のついたものになります。最初に描くと、たいてい他社の事例の書き写しになります。
よく聞かれること:「小さすぎませんか」
言われます。「経営に報告できるようなものではない」と。
ただ、最初から経営に報告できる規模のものを、片手間で作れる会社はありません。そして、小さいものを3本作った会社と、大きい計画を1本作った会社を1年後に比べると、前者のほうが遠くに行っています。
小さく始めることの本当の価値は、時間が減ることではなく、「自分たちで変えられる」という感覚が社内にできることです。ここができると、あとは勝手に進みます。
まとめ
- 時間を取られている作業を20個書き出す。DXっぽさで選ばない
- 1回の分数 × 月の回数を入れる。順位はたいてい予想と違う
- 上位から、判断が入らない・3人以下・止まってもその日は困らないものを1つ選ぶ
- 3か月で作って、減った時間を報告する。次の1つをその場で決める
書き出しのところで手が止まったら、そこからご一緒します。資料室のシートを埋めた状態で持ってきてもらえると、そのまま話が始められます。
この記事で使うシートを配っています
業務棚卸しシート
「どの業務から手をつけるか」を決めるためのシートです。作業を書き出して時間・回数・重要度・判断の有無を埋めると、優先度が自動で並びます。実際の打ち合わせで使っているものをそのまま置いています。
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