「毎月、このExcelからあのExcelに数字を写しているんです。これ、自動化できませんか」
いちばんよく来る相談です。そして、いちばん作り直しになりやすい相談でもあります。
理由ははっきりしていて、転記そのものは自動化できても、転記の前後にくっついている判断は自動化できないからです。そこを見ないまま作ると、動くけれど誰も使わないものができあがります。
作りはじめる前に決めておくと後が楽になることを、5つに絞って書きます。順番にも意味があります。
その作業は、本当にただの転記か
まず疑うのはここです。
「A表の数字をB表に写すだけ」と言われて実際に横で見せてもらうと、写す前にひと呼吸置いている場面がたいてい出てきます。
- 明らかにおかしい数字は、担当者に電話して直してもらってから写している
- 前月と比べて桁が違うものは、いったん保留にしている
- 部署名の表記ゆれ(「営業部」と「営業本部」)を、頭のなかで揃えている
これらは全部仕様です。本人は作業だと思っていないので、聞かないと出てきません。
やり方としては、実際の作業を1回だけ横で見せてもらうのがいちばん早いです。画面共有でも構いません。「今、何を見ましたか」と止めながら聞いていくと、手が止まった場所がそのまま仕様になります。
「じゃあ、そのチェックも全部自動でやりましょう」と言ってしまうこと。判断のルールを聞き出して条件分岐にすると、たいてい分岐が10個を超えて、作った人以外に直せないものになります。判断は残す、という選択肢を最初から持っておいてください。
入力元の表の形を、先に固定する
Excelの表には、人が読むための表と機械が読むための表の2種類があります。
人が読むための表は、こうなっています。
- 見出しが2行になっている(上段に「4月」、下段に「予算/実績」)
- セルが結合されている
- 見やすさのために空行が挟まっている
- 数値のセルに「1,200 千円」のように単位が入っている
- 表の下に注釈が書いてある
これを自動で読ませようとすると、途端に難しくなります。読めないわけではないのですが、列が1つずれただけで壊れる作りになり、壊れたときに直せる人がいなくなります。
機械が読むための表は、こうです。
| 年月 | 部署コード | 部署名 | 区分 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 2026-04 | 1010 | 営業部 | 予算 | 1200000 |
| 2026-04 | 1010 | 営業部 | 実績 | 1180000 |
1行1件。結合なし。空行なし。単位は列名か別列に持つ。見た目は素っ気ないですが、これがあると自動化は一気に簡単になります。
現実的な進め方は、人が読む表を消さずに、機械が読む表を裏に1枚足すことです。見た目の表は今までどおり残して、そこから数式で裏のシートを作る。入力する人の習慣を変えずに済むので、抵抗がいちばん少ない方法です。
例外が何件あるかを、数えてから作る
「基本はこのルールなんですけど、たまに例外があって」の「たまに」を、必ず数字にしてください。
月100件のうち、
- 例外が3件なら、例外は人がやる前提で作ったほうが安い。97件が自動になれば十分です
- 例外が30件なら、それはもう例外ではなくルールが2本あるということ。2本目のルールを聞き出す必要があります
数えずに「例外も含めて全部きれいに」と作ると、分岐だらけの、本人以外がさわれないものになります。そして半年後に業務が変わったとき、直せずに手作業へ戻ります。
全部を自動化しないと価値がない、ということはありません。 むしろ8割で止めておくほうが、長く使われます。
失敗したときにどうなるかを、先に決める
自動化が本番で困るのは、うまくいかないときではなく、うまくいかなかったことに誰も気づかないときです。
決めておくのは、この3つで足ります。
- 途中で止まったら、誰に何が届くか。 メールなのかTeamsなのか。宛先が「システム管理者」だと誰も見ないので、業務の担当者本人に届くようにします
- 二重に動いてしまったらどうなるか。 同じ月の数字が2回書かれると壊れるのか、上書きされるだけなのか。上書きで済む作りにできるなら、そのほうが事故が軽くなります
- 止まっているあいだ、業務はどうするか。 手作業に戻せるなら、その手順を1ページ書いておく。戻せない作りにしてしまうと、止まった瞬間に業務ごと止まります
これはツールの話ではなく、決めごとの話です。Power Automate でも、他の方法でも、必要なことは変わりません。
誰が直すのかを、作る前に決める
最後がいちばん大事だと思っています。
業務のルールは変わります。部署が増える、様式が変わる、締め日がずれる。そのたびに直す必要が出てきます。そのとき誰が直すのかを決めないまま作ったものは、作った人がいなくなった時点で止まります。
「担当の方が自分で直す」を選ぶなら、作り方が変わります。
- 変数やフローの名前を日本語にする(
変数1ではなく対象年月) - 各ステップに1行、なぜそうしているかのコメントを残す
- 手順書は分厚いマニュアルではなく、1ページ。「どこを開いて、どこを直すか」だけ
- 作る過程を画面共有で見てもらう。完成品を渡すより、途中を見せるほうが直せるようになります
逆に「直すのは外部に頼む」と決めるなら、それで構いません。決まってさえいれば、そのぶん凝った作りにできます。まずいのは、決めないまま「なんとなく現場でお願いします」になることです。
まとめ
作りはじめる前に決めることを、もう一度並べます。
- その作業に混ざっている判断を洗い出したか
- 入力元の表を、機械が読める形にできるか
- 例外は何件か。人がやる分をどこで線引きするか
- 止まったとき、誰に通知が届くか。手作業に戻せるか
- これから先、誰が直すのか
この5つが埋まっていれば、作るもの自体は驚くほど単純になります。逆に埋まっていない状態で作りはじめると、機能は増えるのに使われないものができます。
埋めるためのシートを資料室に置いてあります。登録は要りません。埋めてみて手が止まったら、その状態のまま相談してもらえれば、並べ替えるところからご一緒します。
この記事で使うシートを配っています
業務棚卸しシート
「どの業務から手をつけるか」を決めるためのシートです。作業を書き出して時間・回数・重要度・判断の有無を埋めると、優先度が自動で並びます。実際の打ち合わせで使っているものをそのまま置いています。
ダウンロード(無料・登録不要)読んだうえで「うちの場合はどうか」を話したい方へ
OKD SOFT は、生成AI(Microsoft 365 Copilot / Copilot Studio)と Power Platform を使った業務改善・内製化支援をしています。作って渡して終わりにせず、担当の方が自分で直せる状態までご一緒します。
「何から手をつければいいか分からない」の段階でも大丈夫です。まずは現状をうかがうところから。