「これ、アプリにできませんか」と相談されて、話を聞いていくうちに 「それ、関数だけで足りますよ」 と返すことが、わりとよくあります。
売上にはなりませんが、そのほうが相手にとって得だからです。アプリを作ると、その瞬間から面倒を見る対象が1つ増えます。作った人が異動したら、直せる人がいなくなる。そこまで含めて考えると、作らずに済むなら作らないほうがいい。
では、どこが分かれ目か。
作らなくていい典型
ケース1「別の表から値を引っ張ってきたい」
商品コードから商品名と単価を引く、社員番号から所属を引く。これは関数の仕事です。
XLOOKUP(古い環境なら VLOOKUP)で足ります。よくある詰まり方は、
- 引く元の表が1行1件になっていない(結合セル、2段見出し)
- コードの表記がゆれている(前ゼロあり/なし、全角/半角)
- 引く元が別ファイルにあって、閉じていると更新されない
3つめが起きるなら、引く元のシートを同じファイルの中に持ってくるのが早いです。それだけで安定します。
ケース2「条件に合うものを数えたい・合計したい」
「A部署の、4月の、承認済みの件数」。COUNTIFS / SUMIFS の守備範囲です。
ここでアプリを作りたくなる理由はたいてい「集計表の見た目を整えるのが面倒」ですが、それはピボットテーブルで解けます。
ケース3「重複を消したい・並べ替えたい」
UNIQUE SORT FILTER があります。数式1本で、条件に合う行だけを別のシートに並べられます。
「元の表を触らずに、見たい形だけ別シートに出す」——この形にできると、元データを壊さずに済むので事故が減ります。
ケース4「入力ミスを減らしたい」
- 選択肢から選ばせたい → 入力規則(データの入力規則)
- 範囲外の数値を弾きたい → 入力規則
- 条件に合う行を目立たせたい → 条件付き書式
- 触ってほしくないセルを守りたい → シートの保護
これらは全部Excelの標準機能です。「アプリにすれば入力ミスが減る」と言われることがありますが、入力規則で足りることのほうが多いです。
作ったほうがいい分かれ目
逆に、ここに当たったらExcelで粘らないほうがいいです。
1. 同時に何人も入力するこれは関数では解けません。ただし、置き場所を SharePoint / OneDrive に変えるだけで済むこともあります(「誰かが開いています」で待たされる、を減らす)。それでも駄目なら移す。
2. 誰がいつ何を変えたかの履歴が要る監査、品質管理、金額の変更履歴。Excelは上書きで消えます。バージョン履歴はありますが、「この行を誰が変えたか」は追えません。
3. 権限を細かく分けたい「自分の入力した行だけ見える」「上長は部下の分だけ見える」。Excelのシート保護では無理です。
4. 外(メール、承認、他システム)とやりとりする通知を出す、承認を回す、別のシステムに渡す。ここはExcelの外の仕事です。
5. スマートフォンから入力するExcelもスマートフォンで開けますが、現場で片手で入力する用途には向きません(現場にスマホで入力してもらうとき)。
6. 行数が万を超えて、増え続ける重くなり、壊れやすくなります。
上の6つのうち1つだけ当たっている場合は、そこだけ切り出すという手があります。たとえば「承認だけ回したい」なら、集計はExcelのまま、承認の部分だけ Power Automate に出す。全部を作り替える必要はありません。
判断のしかた
相談を受けたとき、私はこの順番で聞いています。
- 今、何人が同時に触りますか(1人なら、たいていExcelで足りる)
- 履歴は要りますか(要らないなら、まだExcelでいい)
- 外に何か出しますか(通知・承認・他システム)
- 何行ありますか。1年で何行増えますか
この4つで、だいたい判断が付きます。1〜4のどれにも当たらなければ、関数と入力規則とピボットで解ける可能性が高いです。
関数で解くときに、やっておくといいこと
作らない選択をした場合でも、これだけはやっておくと後が違います。
- 元データのシートと、見せるシートを分ける。元データは1行1件、触らない
- 数式を書いたセルに、何をしているか1行のメモを残す(セルのコメントでも、隣の列でも)
- 名前の定義を使って、
Sheet2!$A$2:$D$500のような参照を減らす - ファイル名に日付を入れて、「最新版」と書かない(共有フォルダのルール)
アプリでもExcelでも、引き継げるかどうかが2年目を決めます。そこは同じです。
まとめ
- 別表から引く/条件で数える/重複を消す/入力ミスを防ぐ ——ここは関数と標準機能で足りる
- 作るべき分かれ目は、同時入力・履歴・細かい権限・外とのやりとり・スマホ入力・行数
- 1つだけ当たっているなら、その部分だけ切り出す。全部を作り替えない
- 判断は4つの質問で付く:同時に何人/履歴は要るか/外に出すか/何行あるか
- 関数で解く場合も、元データと表示を分ける・メモを残す。引き継げるかが2年目を決める
「作らなくていい」で終わる相談は、実際に何件もあります。そう言える相手のほうが、次に本当に難しい話が来たときに呼ばれる、と思っています。
判断に迷ったら、その表を見せてもらえればその場で答えられます。
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