異動や退職が決まってから、2週間で引き継ぎ資料を書く。ほとんどの職場がこうなっていて、そしてその資料はたいてい役に立ちません。
理由は書く人の能力ではありません。時期が遅いからです。
- 残り2週間は、通常業務+引き継ぎで、いちばん忙しい
- 忙しいので「手順」を書く。手順は書きやすいから
- 後任が本当に困るのは手順ではなく、例外と判断なのに、そこは書く時間がない
結果、画面の操作手順だけが分厚く残り、肝心なところが抜けた資料ができあがります。
後任が困るのは、この4つ
実際に引き継いだ人が詰まるのは、だいたいここです。
1. 例外のとき、どうするか「基本はこうする」は書いてあります。書いていないのは「A社だけ様式が違う」「月末が土日のときは前倒し」「この部署からは毎回遅れて来るので先に催促する」。
2. 誰に聞けばいいか社内の誰がこの件を知っているか。過去に相談した人。外部の担当者と、その人の連絡先。組織図には載っていない情報です。
3. なぜそうしているか「この項目は必ずチェックする」——なぜ? 3年前に事故があったから。その理由が抜けると、後任が「無駄だから省こう」と判断して、同じ事故が起きます。
4. 触ってはいけないもの「このマクロは触らないでください」「このフォルダは経理が見ているので動かさない」。壊してから知るのがいちばん高くつきます。
手順書は、後から画面を見れば分かります。この4つは、聞かないと分かりません。
だから、平時に書く
解決策は単純で、異動が決まる前から少しずつ書いておくことです。ただし「引き継ぎ資料を平時から作りましょう」と言っても誰もやりません。動機がないからです。
現実的なやり方は2つあります。
やり方A:困ったときに、その場で1行書く
例外が起きたときが、書き時です。
- A社の様式が違うことに気づいた → その場で1行足す
- 締め日が土日で困った → 対応と一緒に1行足す
- 誰かに聞いて解決した → 「この件は〇〇さんが詳しい」と1行足す
置き場所は、業務ごとに1ページ。書くのは、困った瞬間だけ。平常時に机に向かって書く時間は要りません。
これを1年続けると、例外だけが集まった1ページができます。手順書より、こちらのほうが後任には役に立ちます。
ひとり情シスの記事で書いた「答えを溜める」(ひとり情シスが最初に手放すべき仕事)と、やっていることは同じです。困った瞬間に書くのが、続けるための唯一の条件です。
やり方B:年1回、休む前に書く
もうひとつは、長期休暇の前を使う方法です。
夏季休暇や年末年始の前は、「自分がいない間に困らないように」という動機が自然に発生します。このタイミングで、
- 自分が休んでいる間に来る作業は何か
- それを誰がやるか
- そのときに困りそうなことは何か
を書き出してもらう。これは引き継ぎ資料そのものです。しかも、休み明けに「実際に困ったこと」がフィードバックされるので、精度が上がります。
年1回、休みの前に30分。これなら続きます。
作ったツールは、別に台帳を作る
引き継ぎでいちばん見落とされるのが、その人が作った自動化ツールです。
Excelマクロ、Power Automate のフロー、RPA、共有フォルダに置いたスクリプト。動いているので誰も気にしませんが、作った人がいなくなった瞬間に「よく分からないもの」になります。
これは業務の引き継ぎ資料とは別に、一覧で持つのが確実です。書くのは、
- 名前/何をするもの/作った人/今の担当
- 手順書があるか
- 止まると困る度
このための台帳を、資料室に無料で置いています。作った直後は誰も必要としません。効くのは2年目です。
引き継ぎ期間にやること
平時に書いてあれば、引き継ぎ期間にやることが変わります。
- 資料を読ませるのではなく、一緒に1回やる
- 次は後任にやらせて、横で見る
- 前任がいる間に、例外が1回起きるのを待つ(起きたら、その場で対応を見せる)
手順を説明するより、1回やらせるほうが速い。これはツールの引き継ぎでも同じで、完成品を説明するより作る過程を見せたほうが伝わる、というのと同じ話です(内製化が続かない会社と、続く会社の違い)。
まとめ
- 引き継ぎ資料が役に立たないのは、書く時期が遅いから。忙しいので手順しか書けない
- 後任が困るのは例外・誰に聞くか・なぜそうしているか・触ってはいけないものの4つ
- 困った瞬間に1行書くか、長期休暇の前に30分書く。平時に机に向かう時間は要らない
- 作ったツールは別に台帳を持つ。業務の引き継ぎ資料には載らないまま消える
- 引き継ぎ期間は、読ませるのではなく一緒に1回やる → やらせて横で見る
属人化そのものを完全になくすのは無理です。なくすのではなく、いなくなったときの被害を小さくする、という考え方のほうが現実的だと思っています。
どこが属人化しているかを洗い出すところからでも構いません。資料室の台帳を埋めてみると、危ないところが自動で色付きで出てきます。
この記事で使うシートを配っています
自動化ツール一覧(管理台帳)
社内で作った自動化フロー・アプリ・マクロ・RPAを1枚に並べる台帳です。止まると困る度と引き継ぎにくさから、危ない行に自動で色が付きます。
ダウンロード(無料・登録不要)読んだうえで「うちの場合はどうか」を話したい方へ
OKD SOFT は、生成AI(Microsoft 365 Copilot / Copilot Studio)と Power Platform を使った業務改善・内製化支援をしています。作って渡して終わりにせず、担当の方が自分で直せる状態までご一緒します。
「何から手をつければいいか分からない」の段階でも大丈夫です。まずは現状をうかがうところから。