経費精算は、紙をやめたい業務の筆頭に挙がります。レシートを台紙に貼る、ハンコをもらいに行く、月末に総務が電卓を叩く。誰も得をしていない作業です。
ただ、ここには制度の話と業務の話が混ざっていて、混ぜたまま進めると止まります。
領収書を電子で保存してよいか、紙の原本を捨ててよいか、どんな要件を満たす必要があるか——これは電子帳簿保存法などの制度の話です。顧問税理士や国税庁の資料で確認してください。要件は改正されることがあり、私の側で保証できる範囲を超えます。この記事は、制度の判断が済んだあと(あるいは並行して)決める、業務側の設計の話に絞ります。
1. 締め日と、締め後に来たものの扱い
いちばん揉めるところです。
- 締め日はいつか
- 締め後に出てきた領収書はどうするか(翌月に回す/例外申請で受ける/受けない)
- 年度をまたぐものはどうするか
紙のときは「総務に頭を下げれば何とかなる」で回っていたものが、仕組みにするとそのままでは通らなくなります。そして例外処理を作り込むと、途端に複雑になります。
現実的には、「翌月に回す」を原則にして、例外は総務が手で登録できる逃げ道を1つ残すのが落としどころです。逃げ道をゼロにすると運用が回らず、逃げ道を仕組みにすると作りが膨らみます。
2. 差し戻しのやり方
領収書の写真がぼやけている、勘定科目が違う、金額が合わない。差し戻しは必ず起きます。
決めるのは3つです。
- 差し戻し理由は必須にするか(任意にすると、ほぼ空欄で返ってきます)
- 差し戻されたとき、前の入力内容は残るか(ゼロから書き直しになる作りは、それだけで使われなくなります)
- 直したあと、最初の承認者からやり直しか、差し戻した人に戻るか
これは経費に限らず申請全般の話なので、紙の申請書をやめるとき にも書きました。
3. 立替と、法人カードと、現金の扱いを分ける
ここを分けずに1つのフォームで受けると、後の集計で詰まります。
| 種類 | 支払い元 | 精算が必要か |
|---|---|---|
| 個人立替 | 本人 | 要(本人に振り込む) |
| 法人カード | 会社 | 不要(明細と突き合わせる) |
| 小口現金 | 会社 | 要(現金の受け渡し記録) |
「精算してお金が動くもの」と「記録だけのもの」は、まったく別の業務です。入力画面が同じでも構いませんが、データとしては区別できるようにしておかないと、月末に総務が手で仕分けることになります。
4. 交通費は、別扱いにできるか
交通費は件数が多く、1件あたりの金額が小さく、領収書がないことが多い——という特徴があります。
これを他の経費と同じ画面で1件ずつ入力させると、入力の手間で嫌われます。
分けるだけで楽になります。
- 交通費は日付・区間・金額の3項目だけにする
- よく使う区間は選択肢にしておく(本社↔工場、など)
- 定期区間を登録しておいて、重複分を自動で除く(これは要件次第)
件数が多いものほど、入力項目を削る効果が大きいです。ここは投資に見合います。
5. 承認者は誰で、何を見ているか
「上長承認」と書かれていても、実際に見ているものは人によって違います。
- 金額が妥当か
- そもそもその出張・会合に行ったか
- 勘定科目が合っているか(これは経理の仕事のことが多い)
聞いてみると、上長は「行ったかどうか」しか見ていないことがよくあります。だとすれば、金額のチェックは経理側に寄せて、上長の承認画面には「誰が・いつ・何のために」だけ出せば十分です。
見る項目を絞ると、承認が速くなります。電子化そのものは承認を速くしませんが、見る量を減らすと速くなります。
6. 会計システムへの渡し方
最後に、出口です。ここを決めずに入口だけ作ると、総務の手作業が入口から出口に移動しただけになります。
確認するのは2つ。
- 使っている会計システムは、どんな形式で取り込めるか(CSVの列構成、文字コード)
- 取り込みは月1回まとめてか、随時か
CSVで取り込めるなら、その列構成に合わせて出力するところまで作ります。取り込み仕様が分かった時点で、設計の8割は決まります。逆に、ここを後回しにすると、最後に大きな手戻りが出ます。
進め方としては、入口から
全部を一度に変えないほうがいいのは、他の申請と同じです。
- 入口だけフォームにする(レシートは写真で添付)
- 出てきたデータは、いったん今までと同じExcelに落とす
- 承認と会計連携は、しばらく今のやり方のまま
- 溜まったデータを見て、次を決める
これだけでも、台紙貼りとハンコ回しは消えます。効果としては十分に体感できます。
まとめ
- 制度(電子帳簿保存法など)の判断は専門家に。この記事は業務側の設計の話
- 締め後に来たものの扱いを決める。逃げ道は仕組みではなく手動で1つ残す
- 差し戻しの体験(理由必須/入力が残るか/どこに戻るか)を先に決める
- 立替・法人カード・小口現金をデータとして区別する
- 交通費は別扱いにして、項目を3つに削る
- 承認者が実際に見ているものを聞く。見る量を減らすと承認が速くなる
- 会計システムの取り込み仕様を先に確認する。ここで設計の8割が決まる
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