新しい仕組みに切り替えるとき、いちばん揉めるのは作ることではなく移すことです。
- 過去データをどこまで持っていくのか決まらない
- 移した数字が合わない
- 切り替えた当日に業務が止まる
- 「前のシステムでは見られたのに」と言われる
作る側は「移行は最後の作業」と思いがちですが、移行の条件が、作るものの設計を決めます。だから先に決めます。
決めること1:どこまで持っていくか
いちばん大きい分かれ道です。選択肢は3つあります。
A. 全部移すきれいですが、いちばん高くつきます。過去10年分のデータには、様式が違う時期、欠けている項目、今は使っていないコードが混ざっています。それを全部きれいにする作業が発生します。
B. 直近だけ移す(1年〜3年)現実的な落としどころ。日常的に参照するのは、たいてい直近です。
C. 移さない。古いほうを見られる状態で残すいちばん安い。旧システムを参照専用で残す、あるいは全件をCSVで書き出して保管する。
Cを最初に検討してください。「過去分も見たい」の中身を聞くと、「年に数回、去年の分を確認するだけ」ということがよくあります。それなら、CSVがフォルダにあれば足ります。
判断の材料は、この2つです。
- 過去データを、実際にどのくらいの頻度で見ているか(体感ではなく、直近3か月で何回か)
- 見るときに何を知りたいのか(金額だけか、明細まで要るか)
決めること2:いつ切り替えるか
業務の谷を狙います。
- 月次・年次の締めの直後
- 繁忙期を外す
- 連休の前ではなく後(連休中に問題が起きても誰も対応できないため)
そして、切り替え方も2つあります。
一斉切り替えある日を境に、全員が新しいほうを使う。分かりやすいですが、問題が起きたときに全員が止まります。
並行運用しばらく両方に入力する。安全ですが、現場の負担が2倍になります。期間を決めないと、いつまでも終わりません。
現実的なのは、部署か拠点を絞って先に切り替えるやり方です。1つの部署で1か月動かして、問題を潰してから広げる。全員が並行入力するより、はるかに負担が軽くなります。
「しばらく両方でお願いします」は、3か月後には片方しか入力されていません。そして、どちらが正しいか分からなくなります。期限を決めて、その日に旧を止める。止められないなら、そもそも切り替えの準備ができていません。
決めること3:戻せるか
これを決めていないと、当日に判断できなくなります。
- どの時点まで戻せるか(旧システムのデータを、いつの断面で保管したか)
- 戻すと決める基準は何か(「◯時までに◯◯ができなければ戻す」)
- 誰が戻す判断をするか
「様子を見ましょう」で1日過ぎ、2日過ぎ、戻れなくなる——これが典型的な失敗です。基準と時刻を先に決めておくと、その場の空気に流されずに済みます。
移す前にやること
1. 旧データを、そのままの形で保管する
加工する前の状態を、必ず1つ残してください。移行作業の途中で「元はどうだったか」を確認する場面が必ず来ます。
2. 件数と合計を控える
移す前に、
- 全件数
- 主要な数値項目の合計(金額の総額など)
- 主要な区分ごとの件数
これを紙かメモに控えておきます。移したあとに突き合わせるための基準です。ここを取らずに移すと、「合っているかどうか」を判断できなくなります。
3. 汚れているデータを洗い出す
移す前に、必ず出てきます。
- 空欄(必須のはずの項目が空)
- 表記ゆれ(同じ取引先が別名で複数)
- 桁違い、あり得ない日付
- 前ゼロが落ちているコード(CSVを開くと文字化けする、前ゼロが消える)
ここで方針を決めます。直すのか、そのまま持っていくのか、その行だけ移さないのか。全部直そうとすると終わらないので、「集計に影響するものだけ直す」が現実的です。
移したあとにやること
1. 件数と合計を突き合わせる
移す前に控えた数字と比べます。合わなければ、原因が分かるまで先に進まない。「だいたい合っているので大丈夫でしょう」で進めると、後から必ず問題になります。
2. 数件、目で確認する
自動で突き合わせるだけでなく、実際のデータを5件くらい、旧と新で並べて見てください。件数と合計が合っていても、中身がずれていることがあります(日付が1日ずれる、全角半角が変わる、など)。
3. 現場の人に、いつもの作業を1回やってもらう
こちらが確認するのと、現場が使うのは別です。いつも見ている画面を出して、いつもの操作をしてもらう。ここで「あの項目がない」が出ます。
そして、旧を止める
期限が来たら止めます。ただし、
- 参照だけできる状態でしばらく残す(書き込みは止める)
- 完全に消すのは、次の年次締めを1回通してから
年次の処理で初めて必要になるデータがあります。1年動かしてみるまで、本当に要らないかは分かりません。
まとめ
- 移行の条件が、作るものの設計を決める。最後の作業ではなく、最初に決める
- 持っていく範囲は3択。全部/直近だけ/移さずに旧を参照できる形で残す。まず3つめを検討する
- 切り替えは業務の谷で。連休の前ではなく後
- 一斉でも全員並行でもなく、1部署だけ先に切り替えるのが現実的
- 並行運用は必ず期限を切る
- 戻す基準と時刻と判断者を先に決める
- 移す前に旧データをそのまま保管し、件数と合計を控える
- 移したあとは突き合わせ+目視5件+現場にいつもの作業をしてもらう
- 旧は参照専用で残し、次の年次締めを通してから消す
移行の範囲を決めるところからでも構いません。ここが決まると、見積りの精度も一段上がります(業務アプリの見積りが読めないのは)。
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