- 必要だと思って稟議を上げたが、差し戻された
- 「本当に必要か」「他と比べたか」と聞かれて、答えに詰まった
- 見積書を添付しただけで出したら、説明を求められた
- そもそも、何を書けば通るのか分からない
稟議が通らないのは、金額が高いからではありません。決める人が判断できる材料が入っていないからです。判断できないものは、保留になります。
決める人が見ているのは3つだけ
役員が稟議を見るときに気にしているのは、ほぼこれだけです。
- これを買わないと、何が起きるのか
- 他の選択肢と比べたのか
- 失敗したとき、いくら損して、どう畳むのか
技術の説明は求められていません。この3つが書いてあれば、たいてい通ります。
1. 「買わないと何が起きるか」を数字にする
「業務が効率化されます」は通りません。今いくらかかっているかを出してください。
書き方
現状:請求書の作成に、経理2名で月40時間
時給2,500円換算で、年間 120万円
導入後:月10時間(見込み)
年間 30万円。差額は年 90万円
時給換算に厳密さは要りません。「これくらいの規模の話です」が伝わればいいからです。むしろ細かすぎると、その数字の議論になって本題が進みません。
金額にならないものは、件数と日数で
すべてが金額に落ちるわけではありません。その場合は次を使います。
- ミスの件数(月◯件の入力ミス、うち◯件が取引先に迷惑をかけた)
- 待ち時間(申請から承認まで平均5.2日)
- 止まったときの影響(受注が止まると1日◯万円)
3番目は効きます。リスクの話は、投資の話より通りやすいからです。
今の数字が無い状態で稟議を書くと、必ず「本当にそんなにかかっているのか」と聞かれます。1か月だけ、実測してください。担当者に日報の端に時間を書いてもらうだけで足ります。この1か月が、稟議の成否を分けます(業務棚卸しシートを使ってもらっても構いません)。
2. 比較した形跡を残す
1社の見積だけで出すと、まず差し戻されます。「他と比べたのか」という質問が来るからです。
比較の表を1つ入れてください。3案で足ります。
| 案A(今のまま) | 案B(既製品) | 案C(作る) | |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 0円 | 30万円 | 120万円 |
| 年間費用 | 0円 | 24万円 | 12万円 |
| 3年総額 | 0円 | 102万円 | 156万円 |
| 削減見込み | — | 年90万円 | 年110万円 |
| リスク | 人が辞めると止まる | 使いこなせない可能性 | 作った人しか直せない |
案Aに「今のまま」を必ず入れてください。これがあると、「何もしない」という選択肢もちゃんと検討したことが伝わります。入っていないと、結論ありきに見えます。
3年で見るのがおすすめです。1年だと初期費用が重く見え、5年だと現実味がなくなります。
3. やめるときの話を書く
ここが抜けている稟議が多いです。決める人がいちばん怖いのは、失敗したときに引き返せないことです。
書くのは3行で足ります。
・契約は年単位。合わなければ1年で解約できる
・データはCSVで取り出せる
・止めた場合、元のExcelの運用に戻せる(手順は残す)
引き返せると分かると、決裁は驚くほど楽になります。逆に、5年契約で違約金があり、データが取り出せない、という条件だと、金額が小さくても慎重になります。
「まず1部署で3か月」「まず10人分のライセンスで」という形にすると、判断の重さが下がります。全社で一気に入れる案しかないと、決める側は全部の責任を負うことになります。段階を提示するのは、決める人への配慮です。
稟議書に入れる項目
型は決まっています。A4で1〜2枚。
- 件名(何を、いくらで)
- 現状と困っていること(数字で)
- 導入するもの(1〜2行。製品名と何をするものか)
- 費用(初期/年間/3年総額)
- 効果(金額、または件数・日数)
- 比較検討(3案の表)
- リスクと、やめるときの手順
- スケジュール(いつ決めて、いつ始めて、いつ効果が出るか)
- 添付(見積書、資料)
長く書かないでください。2枚を超えると読まれません。詳細は添付に回します。
下書き用のひな形を資料室に置いてあります。埋めれば形になります。
通らなかったときに聞くこと
差し戻されたら、何が足りなかったのかを必ず聞いてください。「もう少し検討して」で終わらせると、次も同じ結果になります。
たいてい次のどれかです。
- 数字が信用されていない → 実測した経緯を書く
- 今じゃなくてもいい → なぜ今なのかを足す(法令の期限、保守切れ、繁忙期前)
- 誰が使うのか見えない → 使う部署の同意を先に取る
- 情シスだけの話に見える → 現場の人の言葉を1つ入れる
最後の1つが効きます。「経理の◯◯さんが、月末に2日残業している」という具体的な事実が1行あるだけで、話の伝わり方が変わります。
補助金を理由にしない
「補助金が使えるうちに」を主な理由にすると、補助金が取れなかったときに全部止まります。
補助金は「あれば助かるもの」として、本文の下のほうに1行書く程度にしてください。その仕組みが必要かどうかは、補助金と関係なく決まる話です(補助金が使えるうちに何か入れたい)。
まとめ
- 通らないのは金額ではなく、判断できる材料が無いから
- 決める人が見るのは買わないと何が起きるか/比較/やめ方の3つ
- 効果は金額に換算する。厳密さより規模感
- 金額にならないなら、ミスの件数・待ち日数・止まったときの影響
- 数字が無いなら、1か月だけ実測する
- 比較表に「今のまま」を必ず入れる。3年で見る
- やめ方を3行書く。引き返せると分かると決裁は通る
- 小さく始める案を出す
- 稟議書はA4で1〜2枚。長いと読まれない
- 差し戻されたら、何が足りなかったかを聞く
- 現場の人の具体的な言葉を1行入れる
- 補助金を主な理由にしない
まず、今かかっている時間を1か月だけ数えてください。それが揃えば、稟議はほぼ書けます。
この記事で使うシートを配っています
システム導入 稟議書の下書きシート
決裁する人が見ているのは「買わないと何が起きるか」「他と比べたか」「失敗したときどう畳むか」の3つです。その3つが埋まる形にしたA4のひな形で、書けたら社内の稟議様式に貼り替えて使えます。
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