- 「要件定義から始めましょう」と言われたが、こちらが何を用意するのか分からない
- 仕様書を書けと言われても、書けない
- 打ち合わせに呼ばれるが、質問に答えられずに終わる
- 決めたはずのことが、あとで「聞いていない」となる
先に書いておくと、発注側が仕様書を書く必要はありません。仕様に落とすのは受注側の仕事です。
発注側が用意するのは3つだけです。今のやり方/困っていること/決めていい人。これが揃っていれば、要件定義は進みます。逆に、どれかが欠けていると止まります。
1. 今のやり方(現状)
いちばん大事です。そして、いちばん軽く見られています。
用意するのは、きれいな業務フロー図ではありません。実物です。
- 今使っているExcelのファイルそのもの
- 実際に回っている紙の様式(記入済みのもの。空欄のひな形ではなく)
- 送っているメールの実物(依頼から完了までの一連)
- 月に何件あるか、直近3か月の件数
記入済みの実物が効きます。空欄のひな形からは、どこに何が書かれ、どこが使われていないかが分かりません。個人情報が入っているものは、伏せて構いません。
要件定義で揉めるのは、ほぼ例外の扱いです。「基本はこうですが、A社だけは違う」「年に数回、こういうケースがある」。これを最初に出してもらえると、見積りも設計も変わります。あとから出ると、作り直しになります。「今は特殊なケースは無い」と言われて進んだ案件で、無かったためしがありません(業務フロー図を書くべきか)。
2. 困っていること(症状)
「システムを入れたい」ではなく、何が起きているかを書いてください。
書き方の違い
| 伝わらない | 伝わる |
|---|---|
| 業務を効率化したい | 月末の3日間、経理2名が残業している |
| 情報共有を良くしたい | 同じ質問が週に5回、電話で来る |
| ペーパーレスにしたい | 申請書の保管場所が無い。過去分を探すのに30分かかる |
右のように書けると、「それなら、そこだけ直せば済むかもしれません」という会話ができます。左だと、大きいものを提案するしかありません。
優先順位も付けておく
困りごとを5つ挙げて、「1つしか直せないならどれか」を決めておいてください。
これがあると、予算に収まらなかったときに、削る判断がその場でできます。無いと、持ち帰りになって2週間止まります。
3. 決めていい人
打ち合わせに出る人が、決められる人かどうか。ここで進み方が大きく変わります。
- 決められる人が出ている → その場で決まる
- 担当者だけが出ている → 毎回持ち帰りになる
全部の会に役員が出る必要はありません。ただし、「この範囲は担当者が決めてよい」という線引きを先にしてください。
・画面の見た目、項目の並び → 担当者が決める
・承認の段数、権限の範囲 → 部門長が決める
・費用の追加、スケジュールの変更 → 役員が決める
これを1枚にしておくだけで、打ち合わせの速度が変わります。
決める人だけで進めると、現場が使えないものができます。実際に毎日それを使う人を1人、打ち合わせに入れてください。その人が「この順番だと入力しにくい」と言ってくれるかどうかで、定着が変わります(現場が新しいやり方を嫌がる)。
要件定義で決まること・決まらないこと
期待値を合わせておきます。
決まること
- どの業務を、どこまで対象にするか(範囲)
- 何の情報を、どういう単位で持つか(データ)
- 誰が何をできるか(権限)
- どの画面で何をするか(機能の一覧)
- いつまでに何が出来るか(スケジュール)
決まらないこと
- 細かい画面の見た目(作りながら調整するほうが早い)
- 運用のルールの細部(動かしてみないと分からない)
- 将来の拡張(今決めても変わります)
全部を先に決めようとすると、要件定義が長引きます。決めるべきは範囲・データ・権限です。ここがぶれると作り直しになりますが、見た目は後で直せます。
記録の残し方
「言った・言わない」を防ぐのは、議事録ではなく決定事項の一覧です。
| 日付 | 決めたこと | 決めた人 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 8/29 | 承認は2段(上長→部門長) | 田中部長 | 50万円以上は役員承認を追加 |
議事録は長くて読み返されません。決まったことだけを1行ずつ足していく表を1つ持ってください。打ち合わせの最後の5分で、その場で書きます。
これを受注側と共有しておくと、認識のずれがその場で見つかります。
期間の目安
規模によりますが、中小企業の1業務であれば次くらいです。
| 規模 | 要件定義の期間 | 打ち合わせ回数 |
|---|---|---|
| 申請1種類の電子化 | 1〜2週間 | 2〜3回 |
| 部署の業務1つ(台帳+アプリ) | 3〜4週間 | 4〜6回 |
| 複数部署にまたがる | 1〜2か月 | 8回以上 |
2か月を超えているなら、範囲が広すぎます。分割してください。1回目を小さく作って動かすほうが、結果として速く終わります。
準備が負担なら、そう言ってください
上に書いたものを全部そろえる時間が無い、という状況はよくあります。その場合は、現物を見せてもらいながらこちらで整理するやり方もあります。
- 実際の作業を横で30分見せてもらう
- 使っているファイルを開いて説明してもらう
準備が整うまで待つと、いつまでも始まりません。準備が負担なら、その旨を最初に言ってください。進め方を変えます。
まとめ用のシートを資料室に置いてあります。埋めて渡す形でも構いませんし、他社に出してもらっても構いません。
まとめ
- 発注側が仕様書を書く必要はない。用意するのは3つ
- 今のやり方は、記入済みの実物と件数で。きれいな図は要らない
- 例外を最初に出す。あとから出ると作り直しになる
- 困っていることは症状で書く。「効率化したい」ではなく「月末に2名が残業」
- 1つしか直せないならどれかを決めておく
- 決めていい人の線引きを1枚にする
- 使う人を1人、必ず打ち合わせに入れる
- 決めるのは範囲・データ・権限。見た目は後でいい
- 議事録ではなく決定事項の一覧を1行ずつ足す
- 要件定義が2か月を超えるなら範囲が広すぎる
- 準備が負担なら、そう言う。進め方は変えられる
まずは、今使っているExcelを1つ、記入済みのまま出すところからで構いません。それだけで話はかなり進みます。
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