ファイルをメールに添付するとき、zipにパスワードを掛けて、同じメールアドレス宛に別メールでパスワードを送る。
この方法は、行政でも大手でも「やめる」方向に動いています。ただ、自社だけでやめられないのがこの話の難しいところです。取引先から送られてくるぶんには受け取らざるを得ませんし、「うちはこの方法で」と指定してくる相手もいます。
なので、正論と現実を分けて書きます。
なぜ効果が薄いのか
理由は3つです。
1. 同じ経路で送っているので、盗み見られたら両方見られるメールを盗聴されている前提なら、本文もパスワードのメールも同じ経路を通ります。鍵を掛けた箱と鍵を、同じ配達員に渡しているのと同じです。
2. 誤送信への対策になっていない宛先を間違えたとき、たいていパスワードのメールも同じ相手に送ってしまいます。ここが実務上いちばん大きい。現実に起きる事故の大半は、盗聴ではなく誤送信です。
3. ウイルス検査をすり抜けるこれが最も深刻です。暗号化されたzipは、受信側のセキュリティ機器が中身を検査できません。つまり、危険なファイルを届けるのに都合のいい形式になっています。実際、この形式は攻撃にも使われています。
守っているつもりで、検査を無効化している——これが、やめる方向に動いている一番の理由です。
代わりに何を使うか
用途によって選びます。難しいものは要りません。
A. 社内・グループ会社向け → 共有リンクSharePoint / OneDrive でファイルを置いて、リンクを送る。そもそも添付しないのがいちばん確実です。
- 相手を指定して共有する(リンクを知っている人全員、にしない)
- 期限を付ける
- 必要ならダウンロード不可(閲覧のみ)にできる
- あとから共有を止められる——これが添付との決定的な違いです
B. 社外向けで、相手のIT環境が分からない → 期限付きリンク+パスワード共有リンクに、期限とパスワードを付けられる場合はそれで足ります。パスワードは電話かSMSなど、メールとは別の手段で伝える。別経路にすることに意味があります。
C. 継続的にやりとりする取引先 → 受け渡し場所を決める毎月ファイルをやりとりする相手なら、都度メールで送るより置き場所を決めてしまうほうが安全で楽です。相手にゲストとして入ってもらう、あるいは相手のシステムに置きに行く。
D. 相手がどうしてもzipを求める → 従うこれも選択肢です。取引を止めてまで通す話ではありません。そのかわり、
- 自社から送るときは別の方法にする(受け取りだけ従う)
- 送るファイルに機密性が高いものが含まれないようにする
- 相手先の担当が変わったタイミングで、もう一度提案してみる
進め方:一斉にやめない
自社の方針として決めるとき、いきなり全面禁止にすると現場が止まります。順番があります。
1. まず社内をやめる社内どうしの受け渡しでzipにパスワードを掛けているなら、そこは今日やめられます。共有リンクに切り替えるだけです。ここだけで、件数がかなり減ることが多い。
2. 送信側を切り替える社外に送るときの方法を、共有リンクに変えます。相手には一言添える。
ファイルは共有リンクでお送りしています。開けない場合はお知らせください、別の方法をご用意します。
「開けなかったら言ってください」を必ず添える。これが無いと、相手が困って止まります。
3. 受信側は当面そのまま相手から来るzipは受け取ります。ただし、
- 開く前に、送信元が本物か確認する(心当たりのない添付は開かない)
- 業務で必要なもの以外は開かない
4. 頻度の高い相手から、順に相談する毎月やりとりする相手には、置き場所を決める提案をしてみる。全社に一斉に案内を出すより、頻度の高い相手から個別に話すほうが通ります。
決めておくこと(1枚)
社内向けには、この程度で足ります。
ファイルの送り方
・社内どうし → 共有リンク(添付しない)
・社外へ送る → 共有リンク。期限を付ける。相手を指定する
開けないと言われたら情シスへ。別の方法を用意します
・社外から届いたzip → 受け取ってよい。ただし心当たりのない添付は開かない
・機密性の高いもの(個人情報、契約書など)→ 送る前に情シスに相談
(第1版・◯年◯月 見直し:半年後)
3行から5行。それ以上は読まれません。この形は 生成AIの社内ルールを、A4一枚で作る と同じ考え方です。
「リンクを知っている全員がアクセスできる」設定で共有し、そのリンクが転送されて広がる——これは実際に起きます。既定の共有設定がどうなっているかを、切り替える前に確認してください。既定が緩いまま全社に共有リンクを使わせると、別の問題に置き換わるだけです(SharePointのサイトを作りすぎて崩壊しないための、最初の設計)。
誤送信そのものを減らす
最後に、根っこの話です。この問題の実害の大半は誤送信なので、そちらも手を打つ価値があります。
- 送信前に宛先を確認する猶予(送信を数十秒遅らせる設定)
- 社外宛のメールで警告を出す
- そもそも添付しない(共有リンクなら、間違えても後から止められる)
3つめが本命です。間違えたあとに取り消せるかどうかが、添付とリンクの一番大きな違いです。
まとめ
- パスワード付きzipが効果薄なのは、同じ経路/誤送信に無力/ウイルス検査をすり抜けるの3点
- 代わりは共有リンク。社内は今日から切り替えられる
- 社外向けは期限とパスワード付きリンク。パスワードはメール以外で伝える
- 頻度の高い取引先は、受け渡し場所を決めてしまう
- 相手がzipを求めるなら従ってよい。取引を止めてまで通す話ではない
- 一斉禁止にしない。社内 → 送信側 → 頻度の高い相手 の順
- 「開けなかったら言ってください」を必ず添える
- 共有リンクの既定の設定を、切り替える前に確認する
社内向けの案内を作るところからでも構いません。今どのくらいの頻度で、誰と、何をやりとりしているかが分かると、順番が決めやすくなります。
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